長崎・亀山社中跡地を訪ねて ~「和魂洋才」の原点に触れ、創業の志を再確認~

2024年のゴールデンウィークを使って家族で長崎旅行に行ってきました。私は6歳と4歳の子供がいますので、家族を雲仙やハウステンボスなどに連れていき、十分に家族サービスをした後にはなりましたが、私の隠れた(?)目的地である亀山社中跡地や旧グラバー邸などを訪れました。

昨年に大河ドラマ「龍馬伝」を再視聴していたこともあり、坂本龍馬とトーマスグラバーの息詰まるやり取りや、亀山社中メンバーの長崎での活躍や葛藤などのシーンが思い出されました。そしてこの長崎から日本が変わっていったということを肌で感じ、その時代を動かしていた人たちの志に想いを馳せ、胸が熱くなるのを感じました。50歳を超えて初めての長崎訪問だったのですが、なぜ今まで訪れなかったのかと思うと恥ずかしい思いさえ感じてしまいました。  



その長崎旅行のさなか、円安が急速に進み一時160円に達したというニュースが飛び込んできました。このニュースに象徴されるように、ここ数年は「安い日本」という言葉も定着してしまいましたし、「失われた30年」、「加速度的に転げ落ちる日本」などといったネガティブな表現が溢れています。定量的には、出生率が1.2前後まで低下したり実質賃金が23カ月連続で低下を続けたという点に如実に表れている通り、日本全体が急速に小さく貧しくなっているということだと思います。

長崎という場所でこのニュースを読んで感じたことがあります。このような現在の日本の状態は、160年前に自らの命をも顧みずに日本のために行動を起こしていった志士たちが望んだ未来なのか、ということです。私たちは、160年前に未来のために命を懸けた先人たちに、胸を張って「いい世の中になった」と言えるでしょうか。残念ながら私にはそうは思えません。

160年の間に確かに物質的には豊かになりました。ですが我々の心は豊かになったでしょうか?日本人としての一体感が薄れ、孤立感が強まっていないでしょうか。「自分だけ、今だけ良ければよい」「お金や社会的地位や権力があればよい」というように自分の損得だけで考える貧しい心を持った人が増えていないでしょうか。私には160年前の志士たちとはまるで逆のような心を持つ人に見えます。    



こう書くと、「それってあなたの感想ですよね」と言われそうですが、ここで「日本人の心」について触れたのは、長崎を訪問した感想を書きたかったいうことではありません。むしろ、「日本人の心」が貧しくなってしまったことこそが、近年の日本が衰退を進みつつある本質的・根本的な原因だと考えているからです。

元プロ野球監督の故野村克也氏の言葉に「心が変われば人生が変わる」というものがあります。
「心が変われば態度が変わる。態度が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる。運命が変われば人生が変わる。」
調べてみると様々な著名人が方が少しづつ違う言い方をおっしゃっているようですが、共通するのは、常に「心」が出発点であり、それに伴って「行動」が変わり、最後の結果として「人生」が変わる、という流れになっていることかと思います。国全体に置き換えれば、人々の「心」が変われば人々の人生が変わり、全体としての国が豊かになっていく、ということだと思います。

少しくどいようですが、私は日本が再興するためには、結局のところ日本人の心が変わる必要があると思います。「自分だけ、今だけ」「お金・地位・権力のため」だけではなく、「世のため人のため」「未来や次の世代のため」という公共心を持つ人が増え、実際に行動に移す人が増えていかなければ日本の再興はない、そう信じています。    



私が好きな言葉に「和魂洋才」があります。明治維新以降に西洋の文明を取り入れる上で、「日本人の心」を持ち続けることの重要性を説いた言葉です。有名な福沢諭吉の「学問のすゝめ」でも同様の趣旨のことが言われています。

坂本龍馬は、それより少し前の時期、まだ「攘夷」が沸騰していた時期に、「日本を守るためにこそ海外の文明を取り入れる」ことを考えていたのですが、そのために当時の幕末の志士たちからは強い反感を買っていました。私は、この坂本龍馬の考え方こそ「和魂洋才」であり、龍馬こそ日本で初めて「和魂洋才」を実行に移した人だと思っています。そして、それを実践するために亀山社中を設立したのです。

私はこのような坂本龍馬の思想や行動力に感銘を受けて豊洲社中を立ち上げたわけですが、この社名を見た人の中には「豊洲社中という名前はなぜ漢字なの?」「昭和の中小企業みたい」という反応をされる方がいらっしゃいます。確かに、最近のいわゆるスタートアップ企業の名前を見ると、漢字だけの会社というのはほとんど見当たりません。しかし私はこだわりを持ってこの名前を使っています。「洋才」を実践し海外に挑戦し世界で戦うためにこそ、「和魂」が必要だと考えるからです。  

今回長崎を訪ね、幕末の志士たちの志に想いを馳せ、日本の未来を考えながら、豊洲社中の創業の志を再確認することができ、有意義な旅となりました。
最後に余談にはなりますが、豊洲社中は最初の事業のテーマとして「日本酒×インバウンド×体験」を選定し、この夏に事業を開始することになりました。詳細は決定後にご報告させていただきます。  

豊洲社中株式会社 Co-Founder CEO 牧内秀直