日本酒から日本の歴史・伝統・文化を取り戻し、日本を元気に!【第一回】

豊洲社中は今年2024年の1月に設立したばかりですが、この度
「日本酒×インバウンド×体験」
を最初のテーマに定め、
2024年夏に最初の事業を開始
することになりました。

このテーマを選んだのは、「海外で日本酒人気が高まっている」とか「インバウンドが盛り上がっている」というビジネス的視点ももちろんありますが、それと同じかそれ以上に
「日本酒から日本を元気に!」という我々の想いがあります。
そこで、事業開始に先立ってその想いをコラムにまとめることにしました。
少々長くなりそうですので、以下のように4回に分けてお届けしたいと思います。 

【第一回】世界に羽ばたく日本酒!
【第二回】長期低迷する日本酒の国内消費と2つの要因
【第三回】日本経済の低迷と日本酒消費の低迷は、根っこの要因は同じ!?
【第四回】日本酒から日本の歴史・伝統・文化を取り戻し、日本を元気に! 


今回はその第一回「世界に羽ばたく日本酒!」がテーマです。
初回らしく明るく元気になる内容のみを書いていますので、気楽に読んでいただければと思います。
  

【第一回】世界に羽ばたく日本酒!

海外で高まる日本酒人気

まずはこちらのグラフをご覧ください。 

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こちらは日本酒の輸出額の推移になります。
昨年2023年は、福島の処理水放出以降の中国からの需要減の影響などもあり減少しましたが、大きなトレンドとしては右肩上がりになっています。
実に過去10年で4倍の大幅増加です。

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輸出先の内訳トップ10をみてみると、中国、香港、韓国、台湾、シンガポールといったアジア諸国で半分以上を占めます。
また、アメリカをはじめとする欧米諸国にも広がっているのが分かります。
世界中の人に日本酒が親しまれ始めているということですね。

私自身も2019年から3年間イギリスに暮らしていましたが、当時から日本酒の人気が高まってきているのを感じていました。
実際に獺祭などの有名ブランドが驚くような値段で販売されていました。

パリのフランス料理店でも日本酒を扱う店が増えているという話はよく聞きます。
最近お会いした方が少し前にパリのレストランに行った際に、ソムリエがワインと日本酒をお薦めとして出してきたとおっしゃっていました。
ワインの本場パリで日本酒が薦められている光景を想像すると、なんだか心が温まりますね。

また、世界的に権威のあるブラインドテイスティング審査会のインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)に2007年から日本酒部門が設立されるなど、海外でも日本酒の質が競われる時代になってきています。

輸出だけではありません。
海外で日本酒を醸造する酒蔵も増えてきています。
例えば獺祭で有名な旭酒造さんがニューヨークで酒蔵をオープンさせたのは昨年のことです。
日本のベンチャー企業WAKAZEさんがフランスで酒造りを行っているもの有名ですね。
そして日系企業だけではありません。
イギリスのKANPAI LondonやアメリカのBrooklyn Kuraなど、現地の人による醸造所も広がってきています。
 

ユネスコ無形文化遺産登録への期待が高まる

もう一つ日本酒業界が盛り上がっている話題として、「日本の伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産登録があります。
現在(2024年6月)登録に向けたプロセスが進んでおり、今年2024年の11月頃に決定される見通しとのことです。
今年の春に京都で行われたイベントのパネルトークで、文化庁の担当の方が自信満々におっしゃっていたのでかなり期待してよいのではないかと(勝手に)思っています。

「日本酒」ではなく「日本の伝統的酒造り」となったのにはいろいろな経緯があったようですがそれはさておき、、このユネスコ登録には大きな期待が集まっています。
私もむちゃくちゃ期待しています、文化庁さん!

約10年前に「和食」がユネスコ登録されたのは記憶に新しいところです。
それ以降、世界で日本の食文化に対する関心が高まり、世界中で日本食の飲食店が増えましたし、インバウンド顧客にも日本の食文化を体験することが大人気のコンテンツとなっています。

ユネスコ登録を機に、和食と並んで日本酒も世界に羽ばたく未来が見えてきましたね!
 

日本酒を世界酒へ

このような日本酒の海外人気上昇を踏まえて、日本酒業界ではよく「日本酒を世界酒へ」という言葉を聞くことがあります。

「世界酒」とはあまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、ビール、ワイン、ウイスキーの3種のお酒のように世界中で作られて世界中で飲まれているお酒のことを意味しています。
日本でもこれらの世界酒は多くの種類が作られて飲まれています。
皆さんもこの3種のお酒にはよくお世話(?)になっているのではないでしょうか。

「日本酒が世界酒になる」というのはどういう状態でしょうか?
例えば、ワインの本場フランスやビールの本場ドイツでも日本酒が盛んに作られ、日常的に日本酒が飲まれている状態をイメージしてみましょう。
日本酒が、ビール、ワイン、ウイスキーに次ぐ4番目の世界酒となり、世界中で作られて飲まれている。
そんな姿を想像するとワクワクしますね!
 
ところで、日本酒は世界でなんと呼ばれているかご存じでしょうか?
答えは「Sake」です。
英語では「サーキー」という感じの発音になっています。

初めて知った方は違和感を感じたのではないでしょうか。
「酒」とはアルコールのことだ!
日本酒なのだから「Japanese Sake」というべきだろう!
という声も聞こえてきそうですが、かくいう私も最初は違和感を感じました。
ちなみにその昔は「Rice Wine」などと見当違いな呼ばれ方をしていたこともあったようですので、それに比べればかなりマシですが。。

しかし私は今では「Sake」でよいのではないかと思っています。

その理由を語る際に「地理的表示(GI:Geographical Indication)」という少々テクニカルな言葉が関連していますので少しだけ触れます。
GIとは、産地ブランドを守るために定められているルールで、その産地名を含む名称を独占的に名乗ることができるというルールです。
例えば有名なボルドーワインもGIに指定されていますので、他の産地のワインをボルドーワインとして売ることはできません。
そして日本の国税庁は平成27年に「日本酒」をGIに指定しました。
つまり、「日本酒=Japanese Sake」と名乗っていいのは日本で作られた日本酒だけであり、日本以外で作られた日本酒は「日本酒=Japanese Sake」と名乗ってはいけないのです。 
そこで、世界で一般名詞として使えて、「Japanese Sake」より広い意味を持つ「Sake」が意味を持ってきます。

ここまで理解した上でもう少し考えてみると、「Sake」という言葉を使うことが、GIのルール云々の話を超えて「日本酒を世界酒へ」という文脈でとても使いやすいことが分かってきます。
日本酒が世界酒になった未来の世界を想像してみましょう。

Beer、Wine、Whiskey、Sakeの4種のお酒が世界中で作られて世界中の人に飲まれている。

French SakeやGerman Sakeなど世界各地で様々なSakeが作られ、品質を競い合っているが、やはりJapanese Sakeは本場だけあって格別の人気を誇っている。

とても夢がありますね。
このような世界を目指すためにも「Sake」と呼ぶのは悪くないのではないでしょうか。
皆さんはどう思われますか?
 


今回は「世界に羽ばたく日本酒!」をテーマに、明るい話だけを扱いました。
しかし現実はそう甘くはありません。
海外の日本酒需要増とは真逆に日本国内の日本酒消費は低迷し続けているのです。
次回以降、日本酒業界の課題と、なぜ「日本酒から日本を元気に!」できると考えるのかについてお話ししていきます。

2024年6月
豊洲社中株式会社 Co-Founder CEO
国際唎酒師
牧内秀直